■ご本人が今出来ること、興味を持っていることを活かし快適な環境づくりを心掛けます。
過去に慣れ親しんだ歌や玩具、道具などを利用し、
人生を振り返ることでご本人の自己認識の回復をはかる『回想法』など、
さまざまな療法があります。
ご家族や友人とのコミュニケーションやデイサービス、
グループホームでのおしゃべり、ゲームなども頭と心を活性化するための大切な刺激となります。
■現在認知症の治療法には薬物療法のほかに「非薬物療法」*として一括されるものがあります。
これらは認知機能障害の進行を抑えるだけでなく、
不穏、徘徊、妄想などの周辺症状を抑えたり、
日常生活で必要な機能を改善したりすることを目的としています。
*一般的には非薬物療法には手術も含まれますが、
手術を除いた心理学的なもの、認知訓練的なもの、運動や音楽等
芸術的なものを非薬物療法としています。
■主なものに、
バリデーション療法*、
リアリティオリエンテーション**、
回想法、音楽療法、認知刺激療法、運動療法などの心理社会的療法と、
■日常生活動作の維持・向上を目指すリハビリテーションがあります。
どの療法がどの段階の、またはどのタイプの認知症に適しているのか、
どの程度の効果を期待できるのか、といった点については、
まだ十分な科学的検証が行なわれているとはいえません。
■* validation therapy とは、混乱した行動や非現実的な言葉にも必ず理由があると考え、
その背後にある意味を認め、受容と共感の対応を示す手法です。
■** reality orientationの目的は、現実の事柄を示すことで、
誤った認識に基づいて生じる行動や感情障害を改善することです。
例えば、カレンダーや時計を示しながら説明する、
施設配置図を示しながら目的地へ誘導する等の工夫があります。
■直接専門家の指導を受けながら行なう非薬物療法を受けている人は少なく、
体験談の多くは、家族が情報を収集して自宅で行なっているものについてでした。
■中には実際に療法を受ける本人と、受けさせようとする専門家や家族介護者の間に
気持ちのずれが生じて、期待したような効果が得られなかったケースもあり、
本人の立場に立ってケアを考える「パーソン・センタード・ケア
(その人を中心としたケア)」が大切です。
専門家が行なう非薬物療法 |
■専門家が行なう非薬物療法の中には、
介護施設入所者に対して行われるものと、通所・通院で行なわれるものがあります。
精神科を標榜する医療機関で「精神科作業療法」として
医療保険の枠組みで行なわれるものと、
デイケア(通所リハビリ)等で介護保険の枠組みで行なわれる
「認知症短期集中リハビリテーション」があります。
保険適応になる療法には
医師の処方や指示が必要となりますが、専門家が行なう非薬物療法の中にも、
音楽療法など保険が適応になっていないものもあります。
■事例
若年性認知症の妻を介護する男性は、
病院の臨床心理士が行なう脳の機能回復訓練(「認知リハビリテ―ション」)が、
妻にとってストレスになってしまったことについて話しています。
同じく若年性認知症の妻を介護する別の男性は、
認知症の交流会で音楽療法のことを聞き、3ヵ月ほど前から通い始めたところ、
妻も自分も元気が出るようになったと話しています。
認知症に対する音楽療法は、
介護施設などで集団を対象として行なわれることが多いのですが、
男性の妻が通っているのは大きな病院の神経内科で行なわれている個別療法でした。
本来は自由診療ですが、
認知症に対する音楽療法の効果を調べる臨床研究に参加していたので、
再診料だけで済んでいたそうです。
「音楽療法は歌によって昔の記憶を取り戻して、
生活上できなくなっていたことをできるようにする。
ピアノの伴奏に合わせて妻が何曲も歌えることに感動して涙がこぼれた」
「歌があんだけ歌える」というのが本人の自信となり、
自分にとってもプラスになっている。
音楽療法を始めてから話が長くなり、理解力も出てきたような気がする 」
上記の例は、
必ずしも音楽療法のほうが認知リハビリテ―ションよりも効果があるということを意味していません。
脳のどの部分に変性が起きているかによって、
有効な治療法は人それぞれです。
認知リハビリをやりたがらなかった女性は、
以前からボランティアでやっていた絵本の読み聞かせについては、
子どもたちの反応が嬉しくて、頑張って練習するそうで、
本人が楽しめることややりたい気持ちになれることは、継続につながるようです。
家庭で行なわれている リハビリテーション |
■専門家が直接行なう療法の他に、
多くの患者さんや家族が医師や専門家のアドバイスをもとに、
自分たちで工夫したりして、様々な療法・リハビリに挑戦しています。
■初期の認知症の患者さんでは、
芸術・音楽療法やペット療法、水泳・ウォーキング・リズム体操などの運動療法、
折り紙や編み物などの手作業、園芸療法などを、認知機能を維持するために日常生活に取り入れています。
本人談 「医師から勧められたウォーキング、旅行、絵、写経などは楽しみながらやっている。
特に水彩画は3年経ったら画集を作るという目標もあって楽しみにしている 」
本人談 「ウォーキングが病気の進行を抑えるかどうかは知らないが、リラックスできるし、
愛犬と土手を走ったり、世話をしたりするのは自分にとってもいいことだと思う」
家族談 「知人の協力も得て認知症予防の7ヵ条の中から散歩と一口日記を実践している。
一口日記のほうはあるとき「ありがとう」と書いていたので嬉しかったが、あとが続かない」
■これらの療法やリハビリは
進行を遅らせることを目的としているので、
それで何か画期的な変化を期待することは難しいですが、
中には一定の効果を感じている人もいました。
■たとえば、レビー小体型認知症の人は
書く文字がとても小さくなってしまうという特徴があり、
絵を描くときも同様に大きな紙の端の方に小さく描く傾向がありますが、
絵画教室に通い続けるうちに「ちゃんと真ん中に普通に大きく描けるようになって、
色も暗かったのが、全部明るくなった」と話している介護者もいました。
■また、病気が進行するにつれ、
筋肉の動きが硬くなり、動作が緩慢になりがちなのが、
プール通いを続けることで筋肉の衰えを防止できている、
と感じている介護者もいました。
なお、運動療法は身体機能の低下を防ぐだけでなく、
認知機能の維持にも効果があると言われています。
■多くの人が挑戦して、あまりうまく行かなかったのが、
いわゆる認知症予防のための「脳トレーニング」や「大人のドリル」の類です。
家族は少しでも認知機能の低下を遅らせたいと思って、
こうした脳トレの類を本人に勧めるのですが、
これらは本来、認知機能がまだそれほど低下していない人が、
自ら進んでやるためのものですので、
本人が望まないのに、周囲の人間が無理やりやらせても効果は期待できないどころか、
むしろ逆に本人の不安を強くさせ、不穏や暴力などの周辺症状を悪化させる恐れもあります。
■高齢のアルツハイマー型認知症の女性は、
認知症の進行を抑えるために娘さんと一緒に曼荼羅ぬり絵をやったり、
デイサービスの仲間とともに一日の食事内容の記録をつけたりしています。
これらについては「一緒にやる」のが楽しいようですが、
そうではなく無理やり頭を使って勉強しようとすると、
頭が疲れて拒絶反応が出ると話しています。
■一方、こうした認知機能の向上を直接的な目標とするリハビリテーションではなく、
本人の感情に働きかけて精神の安定を図るものとして、
回想法やバリデーション療法があります。
回想法は、本人が覚えている昔の楽しかった記憶をたどって思い出話をすることで、
認知機能の障害から来る不安や混乱を防いで、
介護者とのコミュニケーションの円滑化を図ろうとするものです。
ボランティア活動の中で回想法を学んだことがある、という女性は、
それを自分でやろうと思っても夫がついてこないと話していました。
周辺症状に対する代替療法 |